【大会総評】1988年選手権
大会総評 - 浦和市立、光った「無欲」さ 大型チーム、思わぬもろさ
(朝日新聞、1988.08.23東京版朝刊24面)
「戦国大会」の前評判通り、各チームの実力に差がなく、有力校が次々と敗れ去る波乱の大会となった。その中で、初陣の浦和市立が、はつらつとしたプレーに終始して甲子園に旋風をまき起こし、異彩を放った。浦和市立のこの新鮮な「無欲」さは、パワーに依存しがちな最近の流れに、新たな方向づけを示したといってもいい過ぎではないだろう。浦和市立の健闘は決してフロックではなかった、といっておきたい。
埼玉大会のチーム打率は2割5分2厘*1。49代表校中、最低打率で甲子園にたどり着いた浦和市立は、なんの変てつもない平均的なチームだと思われていた。それが、佐賀商に勝ってから、昨年準優勝の常総学院、関東の実力校・宇都宮学園、そして宇部商に延長の末、競り勝ちベスト4まで進出した。選手たちは「信じられない」の連発で、ふだん通りの落ち着いたプレーでなん度もピンチを切り抜けた。その支えとなっていたのは、エース星野の制球力と、勝負にこだわらず「すべてを出し尽くそう」とした点だろう。
優勝した広島商は、この浦和市立を鍛え抜かれたバント戦法で突き放した。5試合を通じて試みたバントは、スリーバントスクイズをふくめて24度、うち失敗はわずかに三度という高い成功率をあげた。好投手・星野(浦和市立)を攻め崩したのも、2-2に追いつかれたあとの6回に2安打と、二つのバントから敵失を誘って勝ち越し点をあげている。エース上野も試合ごとに外角のスライダーに鋭さを増してきた。打線もスキのない攻めで少ない安打を有効に生かしていた。さらに、堅実な守りで相手校を圧倒し、キビキビとした攻守交代はさすが、と思わせた。
準優勝の福岡第一は、左腕・前田と四番山之内を中心に、のびのびとした攻守で上位に進出した。最後に広島商の組織力にてこずって大魚を逃したが、個人の能力を最大限に生かしたプレーは、形こそ違えど4年前に甲子園で暴れた取手二(茨城)を思わせた。
大型チームで思わぬつまづきをしたのは、高知商、東海大甲府、拓大紅陵、天理、津久見だった。高知商は愛工大名電に終盤までリードしながら8回、岡投手が単調になって涙の逆転負け。東海大甲府も勝利目前の9回に代打逆転本塁打されて宇部商に足をすくわれた。また拓大紅陵はスケールの点ではずば抜けていながら、粘っこい浜松商に逃げ切られている。津久見も荒削りな打撃で広島商に完封負けした。初出場の札幌開成(南北海道)東陵(宮城)米子商(鳥取)などが、強豪チームを相手にしながら「同じ高校生だから、おじけることはない」と真っ向からぶつかっていって善戦したのと対照的だった。
技術的には本格派投手の少ない大会だった。中盤戦までは木村(宇部商)加藤(愛工大名電)高橋(拓大紅陵)篠田(大垣商)ら左腕投手の活躍が目立ったが、ベスト4に残ったのは前田(福岡第一)と平良(沖縄水産)の二人だった。通算36本塁打(最多は66回大会の47本*2)の数が出たのも、投手力の低下が原因だった。
また、長打力を警戒する余り外野手の守備位置が深くなったのも目についた。肩の強い外野手も育ってきたが、中継プレーのまずさが数多く見られた。
(山本敏男編集委員)